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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2018-08-16

幾代いくよまでにか


題詞:紀国きのくにみゆきしたまひし時に、川島皇子かはしまのみこ御作つくりたまひし歌 或は云はく、「山上臣憶良やまのうえのおくらの作なり」といふ




白波の 浜松がの 手向たむけくさ
  幾代いくよまでにか 年のぬらむ
  一に云ふ、「年は経にけむ」



左注:日本紀にほんきに曰はく、「朱鳥あかみとり四年庚寅かういんの秋九月、天皇てんわう紀伊国きのくにみゆきしたまひき」といふ。


川島皇子かはしまのみこ:萬葉集 34



注)白波の=浜にかかる修飾語 枕詞的用法といってよい(全集)
注)手向けくさ=手向けは 旅の安全を祈って道中の神に幣(ぬさ)などを供えること(全文全訳)
注)…らむ=《助動・現在の原因の推量》…だろうか(辞典)
注)一に云ふ=ひとつ(いち)にいう → あるもの (歌本 写本 書物 人 など) にこう述べてられている(土のちり)

*この "一" は、文中で代名詞として機能していると考えられ、それ以外ではないと思う故、古語辞典の語義を離れ、上記注釈を記しました。
これはまた、英語の代名詞 "one" の機能と、まるでそれを逐語訳したかのように、酷似していて大変興味深いです。
 One says "年は経にけむ."

萬葉集中にはこの "一に云ふ (一云:万葉仮名原文)" の表現による注釈がたびたび登場します。
しかし、手元にある古語辞典三種類を見ると、いずれもこの語を名詞と副詞としてのみ扱い、代名詞として分類しないだけでなく、代名詞相当の語意についても一切説明していません。
古文の文法は複雑怪奇で私にはさっぱり解らないのですが、そうであっても、これは単純明快、代名詞でしょう。
古語辞典がそうなっていないのは、東大下暗し、違った、灯台下暗しですね。
あ、そうか…… だから文法が複雑怪奇になるらむ。


出典:新日本古典文学大系 萬葉集1 2000 岩波書店
参照:新編日本古典文学全集 萬葉集1 1999 小学館
   岩波 古語辞典 1974 岩波書店
   全文全訳 古語辞典 2004 小学館
   学研全訳 古語辞典 2004 学研教育出版


改訂:2018.08.17 "一" の読みに "いち" を()して追記



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