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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2018-08-22

立原道造「鳥啼くときに」


詩集「優しき歌 I」より



鳥啼くときに

式子内親王《ほととぎすそのかみやまの》による Nachdichtung



ある日 小鳥をきいたとき
私の胸は ときめいた
耳をひたした沈黙しじまのなかに
なんと優しい笑ひ声だ!

にほひのままの 花のいろ
飛び行く雲の ながれかた
指さし 目で追ひ━━心なく
草のあひだに やすんでゐた

思ひきりうつとりとして 羽虫の
うなりに耳傾けた 小さい弓を描いて
その歌もやつぱりあの空に消えて行く

消えて行く 雲 消えて行く おそれ
若さの扉はひらいてゐた 青い青い
空のいろ 日にかがやいた!




立原道造 1914-1939 詩集「優しき歌 I」より



出典:立原道造詩集 1988 岩波書店


注)式子内親王=しょくし/しきし(のりこ)ないしんのう 平安時代末期の皇女、賀茂斎院である (ja.wikipedia)
注)《ほととぎすそのかみやまの》=下記
「郭公(ほととぎす)その神山の旅枕ほの語らひし空ぞ忘れぬ」〈新古今・雑上〉(デジタル大辞泉)
皇女式子内親王が、ある祭神(神山)に仕え(旅枕)させられていた少女時代に、ほととぎすの声を聴きしばし語らった、その時の空は決して忘れない、と過ぎし日を偲ぶ。
注)Nachdichtung= 言い換え 置き換え 自由な改変



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