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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2017-09-29

棲みわたるがね


橘の 林を植ゑむ ほととぎす
つねに冬まで 棲みわたるがね

作者不明:萬葉集 1958


注)…む = 〔意志〕…しよう → 橘をたくさん植えて林を作ろう の意
注)…わたる = (生を)…過ごしてゆく …生きてゆく
注)…がね = 〔願望〕…ように

出典:新日本古典文学大系 萬葉集4 2000 岩波書店
参照:岩波 古語辞典 補訂版 1990 岩波書店

2017-09-27

土のちり( Uriah):ダビデとウリア

 

ブログオーナーのニックネームに英名を追記し、必要に応じてそれぞれを単独で、あるいはカッコ内に併記して、表示するようにします。

  新しい名前は: 土のちり (Uriah)

2017-09-24

串田孫一 「夏の青い空」


若い頃、半世紀ほども前に読んだエッセイ。
串田孫一氏が、二十歳になったばかりの若い友人の死の床に駆け付けたときのことを綴った、今もなお、鮮烈な印象の残る一節です。

∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴

 その時に彼がかすかな声で、普段よく口をききながらする恥ずかしそうな表情をどこかにかすかに浮かべて言った言葉は「青い夏の空がもう一度見たかった」というのだった。そしてその言葉より幾分か大きく澄んだ声で「夏の青い空を見たかった」と言いなおした。私は何も答えなかった。もう一昼夜とはもちにくい生命のことを充分に知っている彼に、奇跡の起こりようはずもないことを知っている私が、「すぐによくなる。青い空の見える夏には何処へ行こう?」などとはとうてい言えなかった。私はただ「青い夏の空」という言葉を「夏の青い空」と言いなおして、その訂正を彼なりに満足していることをぼんやり考えていた。

∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴


その、おそらくは山男であったろう若い研究者の友人が、やっと、口にすることのできた言葉「青い夏の空」。

なるほど、そうか… と、私は共感した。
そして、「夏の青い空」のほうが、文法的には正しいだろうが、この際、どっちでもいいと思った。

しかし、文筆家である串田孫一氏を前にして、その友人にはこだわりがあったのだろう。
それを、「夏の青い空」に訂正した。

そして、串田氏は「その訂正を彼なりに満足している」と記す。

これにも、なるほど… と、納得。
もう多くのことは望めない、今わの際に、新たな心残りとなってしまうこだわりを、おそらく渾身の力を振り絞って、取り除くことができたのだ。
人は、それぞれ固有のこだわりを、負って、追い求めて、生きる。それが、ほかの誰でもない、その人の人生なのだ。

エッセイは、若いころとは違う、自らの、更には年老いた母親の、夏を待ち受ける気持ち、炎天下の暑さの激しさ荒々しさ、避暑の良し悪し、などに触れたのち、串田氏はこれを、次のように結ぶ。

∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴

 はげしく荒々しく、そのために大きな崩壊さえも自ら招かざるを得ないような最盛期にあるものの姿から、目をそらせることはほうんとうではない。
 もう一度夏の青い空を見たかったと言って死んだ若い友人は、その空に直接の魅力を感じていたのかも知れないが、その青さの前ではすべてのものの強烈な動きが要求され、烈しさが美と変わる舞台だからこそ愛したようにも思われてならない。

∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴


出典: 串田孫一 1959 「人生誌」 小山書店

改訂:2017.09.23 末梢表現変更
   2017.09.24 末梢表現変更

2017-09-22

H.ハイネ / F.シューベルト「漁師の娘」


シューベルト作曲 歌曲集「白鳥の歌」より、ハイネの詩による「漁師の娘」

2020.06.24 記事タイトル表記変更→H.ハイネ / F.シューベルト, 他末梢変更

2017-09-20

中原中也「わが喫湮」


中原中也「山羊の歌」より

2017-09-18

松は知るらむ


つばさなす ありがよひつつ 見らめども
人こそ知らね 松は知るらむ

山上憶良やまのうえのおくら:萬葉集 145


注)翼なす = 有間皇子ありまのみこの霊魂が天翔けて(体系/全集 要約)
注)あり… = 引き続き行われることを表す接頭語的用法(全集)
注)…らめ = 〔推量〕現在の 今もなお起きている 事態の推量〔已然形〕(辞典)
注)…ね = 〔打消〕ず の已然形(辞典)
注)…らむ = 〔推量〕現在の 今もなお起きている 事態の推量〔終止形〕(辞典)

出典:新日本古典文学大系 萬葉集1 2000 岩波書店
参照:新編日本古典文学全集 萬葉集1 1999 小学館
   岩波 古語辞典 補訂版 1990 岩波書店

2017-09-16

"Growling Tenor Recorder"


このビデオクリップ、録音マイクが、近くを通り過ぎる車の音も拾ってしまっていることからも判るように、リアルな、現実の情景そのまま、それ以外の何物でもありません。

それにもかかわらず…… 久々に、シュールという言葉を思い出させ、それを、映像と音にしたような、なんとも不思議な作品。

?… ?… ??… ???

まずは、クリップをご覧あれ。


∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴

   Brava !!!!!!!!


   01'23''
Tenor Recorder (w/Growling): Luna Schneider
Location: Burg Sternberg, Germany

∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴

まるで、いつか見た夢のような、失われた…時を …影を、追い求めているような、そんな気がして、意識がはるか彼方へ翔んで行ってしまいそうです。


"Growling-technique"

これをアップした、ルナ・シュナイダーさんの、一行だけのコメントが付いています:

  wooo, i just discovered the "growling-technique!"

吹いている楽器はテナー・リコーダー。
この楽器、別名を、ヴォイス・フルートとも呼ばれ、人の声に近い音域と響きをもっています。

ルナさん、楽器を鳴らすために息を吹き込むのと同時に、キーに合わせて声帯を震わせ、歌うような声を出しているようです。
その結果、音域が声に近い楽器は、まるで人が唸って (growling) いる声のように、共鳴して、楽器本来の音にかぶさるように鳴っているのだと思います。
それが更に、トンネルのようなチューブに反響して、不思議な効果を醸し出しています。

そして、特筆すべきは、カメラ。これは、見事!
ヴォイス・フルートが奏でる曲の不思議なノスタルジー、それにカメラ・ワークが、シュールの衣を纏わせています。
通り過ぎる車の音も、邪魔なようでいて、実は、情景にリアリティーを与えているようです。

私にとって、これは、極めてまれな、「芸術」というあまり好きではない、いやはっきり、嫌いな言葉を、想起させる映像です。

昔の、シュールレアリスト達のわざとらしい仕掛けの遊び… 一皮むけばギリシャ神話のもじりにすぎないような見世物、等々より、ず、ず、ずうっと、面白い、すばらしい。


改訂: 9/17 Luna Schneider → ルナ・シュナイダー


2017-09-13

朝居る雲の


秋津野に 朝る雲の せ行けば
昨日も今日も なき人思ほゆ


作者不明:萬葉集 1406


出典:新日本古典文学大系 萬葉集1 2000 岩波書店
参照:岩波 古語辞典 補訂版 1990 岩波書店



2017-09-10

G・ドニゼッティ「人知れぬ涙」


オペラ『愛の妙薬』の中で、ネモリーノによって歌われるアリア「人知れぬ涙」。
リリック・テノールの数あるアリアの中で、最高傑作ともいわれ、広く親しまれていると思います。

2017-09-09

また見けむかも

 

題詞:大宝 たいほう元年辛丑しんちう紀伊国きのくにみゆきたまひし時に、結松むすびまつ を見し歌一首 柿本朝臣人麻呂歌集かきのもとのあそみひとまろかしゅううち

2017-09-06

やめてほしい!「遷移する」


いつごろからか、ネット上あるいは印刷物の、パソコン関連の記事や取扱説明書の中で、「遷移」という言葉が、誤用、多用、されていて、なんとも気分が悪いのは私だけではないと思いますが、いかがでしょうか。

最近のパソコン取扱説明書から一例を。


これ、なんとも気持ちが悪いですね。

この例文なら、… に移ります または … に変わります、などが普通の表現だと思います。
それを敢えて …… なぜ? どんなつもりで?
平易な言葉を、熟語に置き換えて、いい文章にしたつもりなのでしょうか?
そうなんでしょうね、わざと悪くするはずはないので。

虎の威を借る狐かな。

これを、単純に間違いだと思うだけでなく、気持ちが悪い…と思うのは、たぶんそこのところ。
いいつもりになって、まちがったことをやってしまう… という、わが身を振り返っての反省をもふくめた、気持ち悪さ、居心地の悪さ。

そして、たとえ間違いであっても、それが印刷されていたり、ネット上で活字体になったりしていると、それを正しいと思い、あるいは、その意味も判らないまま、まねてしまう愚かさ。
そして、それがネット上で、安易にクリックされて、またたくまに、拡散、萬延する怖さ。

当ブログも、私が、知らぬが仏で平然としてはいても、誤字脱字誤謬があちこちで活字体になっているのかと思うと、ちょっと怖くなります。

そこで、たわむれに、誤字を一つ、わざと埋め込んでみました。
どれでしょう…… 見つけるのはかなり難しいかも…… ヒントは、古い字体 (^_-)-☆。

このような、判別が難しく見逃してしまいがちな誤字や、漢字変換ミスなどとは違って、PC の表示画面が「遷移する」と堂々と書かれると、まるで裸の王様を見ているかのような思いがして、あたりを見回す私、黙っていられないこのごろなのです。

∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴

遷移の “遷” の意味、デジタル大辞泉(小学館)にはつぎのように書かれています。

 1 元の場所や地位から離れて別の所に移る。移す。「遷都/左遷・孟母三遷」
 2 物事が時間とともに移り変わる。「変遷」
 3 魂が体から抜け出る。死ぬ。「遷化」

3番目の遷化せんげというのは知りませんでしたが、他の二つは、日本史で習った “遷都”、いつの間にか覚えた “変遷”、として私が理解しているところと一致しています。

この文字の意味するところは、ある物や事が “相応な時間や距離を経て移り変っていく様” を指していると思います。

したがって、変化する新旧二つの状態の間に、特に時間的空間的経過がなければ、それは “遷” にあらず。
紙芝居のように、一枚めくって即次の絵に変わる… それは、文字通り “変”化。
それを、遷移などといったら、それ自体が漫画でしょう。


* 意図的に埋め込んだ誤字は:萬延 正しくは:蔓延


改訂:2017.09.07 タイトル変更 遷移します→ 遷移する 文末に加筆
   2017.09.09 文面構成変更 他
   2019.04.22 埋込誤字の解追記


2017-09-04

中原中也「蜻蛉に寄す」


中原中也「在りし日の歌」より

2017-09-02

ヘレン・マガーさん「ベニスの謝肉祭」


独奏フルートの名曲、あるいは、フルート教則本でおなじみの「ベニスの謝肉祭」。
深い味わいのある名曲というわけではなく、フルート奏者の、テクニックの聴かせどころ、聴きどころ、そのためにあるような曲。