秋の消息
麻は朝、人の 肌 に追ひ 縋 り
雀らの、聲も硬うはなりました
煙突の、煙は風に亂れ散り
火山灰掘れば氷のある如く
けざやけき顥気の底に靑空は
冷たく沈み、しみじみと
敎會堂の石段に
日向ぼつこをしてあれば
陽光に 廻 る花々や
物蔭に、すずろすだける蟲の音や
秋の日は、からだに暖か
手や足に、ひえびえとして
此の日頃、廣告氣球は新宿の
空に揚りて漂へり
雀らの、聲も硬うはなりました
煙突の、煙は風に亂れ散り
火山灰掘れば氷のある如く
けざやけき顥気の底に靑空は
冷たく沈み、しみじみと
敎會堂の石段に
日向ぼつこをしてあれば
陽光に 廻 る花々や
物蔭に、すずろすだける蟲の音や
秋の日は、からだに暖か
手や足に、ひえびえとして
此の日頃、廣告氣球は新宿の
空に揚りて漂へり
中原中也 1907-1937「在りし日の歌」より
出典:中原中也全詩集 P.189 1972 角川書店
注)けざやけき=けざやかな:際立っているさま(大辞泉)
注)顥気=こうき: 顥 気;天上の白い空
注)すずろ=漫ろ:あてのないさま(大辞泉)
注)すだける=すだけ〔すだく•自動カ行四段•連体•(虫や鳥などが)鳴く〕+る〔り•助動ラ変•連体・…している〕(全文全訳古語辞典)
改訂:旧仮名遣い誤記訂正; 追い→追ひ, 漂えり→漂ヘリ
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