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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2019-03-11

R. M. リルケ「ときどき母に憧れる」


「最初の詩集」より




ときどき母に憧れる


ときどき母に憧れる、
髪の白い静かなおみなに憧れる。
その愛の中でこそ このわたくしが花咲いた。
氷のような冷たさで私の心へ入り込んだ憎しみを
はげしい硬い憎しみを、母がかしてくれそうだ。

そうしたら、母と私とは 二人並んですわるだろう、
そのとき壁の切炉には、燃える火が低声こごえで呟くだろう。
そのとき私は聴き入るだろう、なつかしい口の言葉に。
そのとき紅茶の茶碗の上に 静粛が揺れるだろう
蛾が一つ 灯の周りを飛ぶように。



Rainer Maria Rilke, 1896-1898, Erste Gedicht, "Ich sehne oft nach einer Mutter mich"
ライナー・マリア・リルケ、1896-1898、最初の詩より "ときどき母に憧れる":片山敏彦 訳




出典:リルケ詩集 片山敏彦 訳 1962 みすず書房

注)切炉=きりろ 壁の切炉=暖炉 (原語 Kamine=暖炉)



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