ときどき母に憧れる
ときどき母に憧れる、
髪の白い静かな婦に憧れる。
その愛の中でこそ このわたくしが花咲いた。
氷のような冷たさで私の心へ入り込んだ憎しみを
はげしい硬い憎しみを、母が融かしてくれそうだ。
そうしたら、母と私とは 二人並んで坐るだろう、
そのとき壁の切炉には、燃える火が低声で呟くだろう。
そのとき私は聴き入るだろう、なつかしい口の言葉に。
そのとき紅茶の茶碗の上に 静粛が揺れるだろう
蛾が一つ 灯の周りを飛ぶように。
髪の白い静かな婦に憧れる。
その愛の中でこそ このわたくしが花咲いた。
氷のような冷たさで私の心へ入り込んだ憎しみを
はげしい硬い憎しみを、母が融かしてくれそうだ。
そうしたら、母と私とは 二人並んで坐るだろう、
そのとき壁の切炉には、燃える火が低声で呟くだろう。
そのとき私は聴き入るだろう、なつかしい口の言葉に。
そのとき紅茶の茶碗の上に 静粛が揺れるだろう
蛾が一つ 灯の周りを飛ぶように。
Rainer Maria Rilke, 1896-1898, Erste Gedicht, "Ich sehne oft nach einer Mutter mich"
ライナー・マリア・リルケ、1896-1898、最初の詩より "ときどき母に憧れる":片山敏彦 訳
ライナー・マリア・リルケ、1896-1898、最初の詩より "ときどき母に憧れる":片山敏彦 訳
出典:リルケ詩集 片山敏彦 訳 1962 みすず書房
注)切炉=きりろ 壁の切炉=暖炉 (原語 Kamine=暖炉)
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