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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2019-03-18

中原中也「誘蛾燈詠歌 - 5 メルヘン」


中原中也 未刊詩篇より




5 メルヘン



寒い寒い雪の曠野の中でありました
静御前と金時は親子の仲でありました
すげ笠は女の首にはあまりに大きいものでありました
雪の中ではおむつもとりかへられず
吹雪は瓦斯の光の色をしてをりました

   *

或るおぼろぬくい春の夜でありました
平の忠度は櫻の木の下に駒をとめました
かぶとは少しく重過ぎるのでありました
そばのいささ流れで頭の汗を洗ひました、サテ
花や今宵のあるじならまし

(1934.2.16)               



中原中也 1907-1937 未刊詩篇



出典:中原中也全詩集 P.730 1972 角川書店

注)曠野=あらの こうや:荒れ果てている野。人けもなくて寂しい野原。あれの。(大辞泉)
注)静御前=源義経の側室。母は磯禅師。もと白拍子(歌舞を演じた舞女)。義経の京都退去に従ったが吉野山中で別れ、捕らえられた。(大辞泉)

     吉野山 峰の白雪 ふみわけて
       入りにし人の 跡ぞ恋しき

注)平の忠度=平忠度(たいら の ただのり) 1144~1184 平安末期の武将・歌人。忠盛の子。清盛の弟。薩摩守(さつまのかみ)。藤原俊成に師事して和歌をよくし、平氏西走の途中、京都に引き返して師に詠草1巻を託した話は有名。一ノ谷の戦いで戦死。(大辞泉)
注)いささ流れ=ちいさい/ささやかな 流れ(大辞泉)
注)花や今宵の主ならまし=平家物語によると、一ノ谷の戦いで源氏方の岡部忠澄に討たれた時、忠度の矢筒に結びつけられたふみを解いてみると「旅宿の花」という題で一首の歌が詠まれていた。(俗解)

     行き暮れて 下陰したかげを 宿とせば
       花や今宵の あるじならまし




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