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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

改訂情報:


- The Alexander Brothers : Nobody's Child リードに加筆, 一部記述変更

- ホセ・カレーラス「光さす窓辺」 対訳付き原語歌詞掲載

2019-08-02

Over in the Gloryland - 栄光の地へ: by SJB


New Orleans Jazz から一曲。曲は、ジャズという音楽ジャンルの源である New Orleans Jazz の、そのまた源のひとつ、黒人霊歌 (Negro Spiritual) の一曲。
Shotgun Jazz Band の演奏で。



黒人霊歌は、呻き、悲鳴の裏返し。
親も兄弟姉妹も恋人もみな、虫けらのように、奴隷所有者の横暴に戯れに慰みに、差別主義者のリンチにはかなく消えた。
なお、差別を、辱めを、屈辱を受け、ヘイトクライムに怯える我が身。命はいらぬ……、せめて皆、"栄光の地" に逃れよう。

一階は酒場、二階は売春宿。そんないかがわしい場所に、羽目を外して陽気に鳴り響くアドリブ。
前世紀初頭のニューオーリンズの街で、そのような環境に発祥したといわれるジャズ黎明期の演奏スタイル。
世にあって希望も涙も枯れ果て、それでも生きねばならぬ、男の、女の、いや果ての望み、一寸の虫と蔑まれた魂の叫び。

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南北戦争が終結し、奴隷制度は1865年、合衆国憲法修正13条によって正式に廃止になる。
しかし、戦後の政情は安定せず南部諸州における奴隷解放に実効がなかったばかりか、返ってクー・クラックス・クランが暗躍し、新たに有色人種に対する隔離政策(ジム・クロウ法)が始まることとなる。
更に、ここニューオーリンズのあるルイジアナ州では、事態は一時とんでもない方向に推移します。

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1874年、武装した5000名のホワイト・リーグと呼ばれる白人極右組織 (a white paramilitary terrorist organization) が州政府の政権交代を要求し、知事がそれを拒否すると、3500名の警察と州兵を相手に100名の死者を出す戦闘の後、州庁舎、市民ホール、兵器庫などの施設を占拠した。
とはいえ、当然の成り行きである連邦軍の部隊と艦船の到着を前に、ホワイト・リーグは占拠を三日で解き敗退した。
それからおよそ二週間、グラント大統領 (北軍将軍) は、ホワイト・リーグが、既に Colfax 大虐殺、および Coushatta 大虐殺を引き起こしていて政情不安定な、ルイジアナ州北部のレッド・リヴァー・ヴァレー地域平定のため更なる部隊を派遣した。
しかしなお、ホワイト・リーグは活動を続け、 州議会へのリベラル党の躍進に力を貸した。
 - en.wikipedia.org より抜粋意訳
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White League and Ku Klux Klan alliance, in illustration, by Thomas Nast, in Harper's Weekly, October 24, 1874

"A sword-wielding Columbia"
protecting an injured black man from being beaten by a mob of White Leaguers
Title: "Halt!" "This is not the way 'to repress corruption and to initiate the Negroes into the ways of honest and orderly government.' "
by Thomas Nast

"剣を振るうコロンビア"
"Columbia" が、負傷した黒人男性が White League の暴徒に更に暴行を加えられるのを防いでいる。

風刺画タイトル: "やめろ!" "これは '腐敗を抑圧し、黒人を誠実で秩序ある体制に仲間入りさせるための' 然るべき方法ではない"
トーマス・ナスト (Thomas Nast, 1840–1902 ) 作


注)Columbia=アメリカ合衆国の古名:ここに描かれた、合衆国を象徴する "Columbia" の姿は自由の女神像を彷彿とさせますが、この風刺画は自由の女神像建立の10年以上前の作。ローマ神話の自由の女神 "リーベルタース" が両者共通のイメージの源泉と思われます。(土のちり)

 - en.wikipedia.org より画像二点

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1891年、ニュー・オーリンズ市の白人が議員を独占する市議会により、1874年のホワイト・リーグの、武力による州庁舎等の占拠、を記念するモニュメントが建てられた。

"Battle of Liberty Place Monument"
The monument in its original location on Canal Street, 1906
 - en.wikipedia.org                    

二十世紀も後半になり、ローザ・パークス、マーティン・ルーサー・キング牧師等の働きがあり、ケネディ政権を経て、1964年、南部テキサス州出身のリンドン.B.ジョンソン大統領の下、公民権法案が成立する。
これにより、市民の日常生活に課せられるいかなる人種差別も違法となったのだが……。


それで、このモニュメントはその後どうなった?

  - "膨大な論争と暴力の脅威" が渦巻く中、安全確保のため早朝の薄暗闇に紛れて、警察官の人垣に囲まれ防弾チョッキを着た作業員によって取り壊され倉庫に移されました。


取り壊されたのは、いつ?

  - それは…… そんなに、昔ではありません。百数十年前の違法な出来事を記念し美化する碑ですが、まだ崇拝者が非常に多くいて……

で、それは、いつ?

  - ……

いつ?

  - …… 2017…

えっ? お、おととし……
歴史を振り返っているつもりだったのに… これは今、私とあなたが負うべき責任、その一部ですね。


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"Over in the Gloryland"

If you get there someday, before I do
Over in the Gloryland
Then tell all my friends, I'm coming too!
Over in the Gloryland!

Yes over in the Gloryland
Oh Jesus, take me by the hand.
Over in the Gloryland!
Well over in the Gloryland,
All you good folks can join that angels' band!
Over in the Gloryland!

 Lyrics: James W. Acuff


注)Gloryland=栄光の地: "天国" に近い意味と捉えるのが順当であるように思える反面、既に19世紀前半に奴隷制度廃止を実現しているところの、独立前の母国イギリスや地続きのカナダなどの然るべき地を指すようにも受け取れます。

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ぬるま湯の中で満ち足りてこれを聴くひとには、これを軽んじたり批判したりする資格はないように思います。
歴史や背景が判っていてもいなくても… ただ聴こう、悲しさの表現にも色々ある音楽の多様性を。
一寸の虫にされてしまった者の魂の叫びを!

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ヴォーカルに続く、菊池はるかさんのトロンボーン・ソロが素晴らしく、バンドミストレスの マルラ・ディクソン さんも大満足の様子で、ソロが終わると聴衆に親指で指し示して "ハルカ" とアピールしています。
そこへ、短パンのおっさんがコルネットを持って訪れ、演奏に飛び入りします。
これがまたおもしろい。
マルラさんのトランペットと掛け合いを演じてくれます。

トランペットとコルネットの掛け合い… この似た者同士の楽器それぞれの音色とその味わいの違いがこれほどはっきり聴き取れるシチュエーションもそう多くはありません。
せひお楽しみください。


 Music for a while!
 
 
Brava !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

7'25"
"Over In The Gloryland"
Played by the Shotgun Jazz Band
Marla Dixon: Trumpet & Vocal
James Evans: Reeds
John Dixon: Banjo
Haruka Kikuchi: Trombone
Tyler Thomson: Bass
Justin Peak: Drums
June 7, 2014 at the French Market, New Orleans, La.



改訂:2019.08.04 New Orleans Jass → New Orleans Jazz (Jass は Jazz の語源ともいわれるが、ジャンルの名称とされるに至っていない)
2019.08.18 動画サイズ微調整 文字サイズ変更 他
2020.07.06 誤記訂正; バンドマスター→バンドミストレス
2023.09.19 暴力記念碑撤去説明加筆, 誤植修正, 末梢表現変更, レイアウト補正 他


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