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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2023-09-23

立原道造「メヌエツト」


「捨遺詩篇」より





メヌエツト
  
 

やさしい鳥 やさしい花 やさしい歌
私らは 林のなかの 一軒家の
にほひのよい春を 夢みてゐた 
鄙びた 古い 小唄のやうに

青い鳥
光る果実
ながれる雲 昼のにほひ
ちひさい炎

風が 語つて 忘れさせてゆく
淡い色のついた春を 夢みてゐた
ひとつの 古い 物語のやうに……

夜窓の星と 置洋燈おきランプの またたきが
祝つてくれた ひとつの ねがひ
優しい鳥 優しい花 優しい歌



立原道造 1939「捨遺詩篇」1935 - 1939 より



注)鄙びた=ひなびた
注)この詩は道造が亡くなる2カ月ほど前、「文芸汎論」昭和14年 (1939年) 1月号に掲載され(出典巻末の年表による)、おそらく生前に発表された最後の作品であると思われます。


出典:立原道造詩集 1988 岩波書店

改訂:2024.05.10 誤記訂正:メヌエット→メヌエツト, 注釈に追記, アイコンLink修正, 行間微調整



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