「少女の歌」より
わたしはその頃 まだ幼なくて たくさん夢を見
ていたけれど
五月の幸を持たなかった。
そのとき 竪琴を持った人が
家の前に通りかかった。
おずおずと 私は眼を挙げて その人を見た――
「おお、母よ、われに自由を・・・・・・」
その歌の 最初の声を聴いたとき
何かが急に割れた気がした。
その歌が始まる前に もう判った
わたしの生の 将来の姿が。
歌うな、歌うな、見知しらぬ人よ、
わたしの生の 将来の姿を。
おんみは歌う、わが幸を、わが歎きを、
わが心をおんみは歌い、ああ、それのみか
いち速く、あまりに早く わが運命を歌っている、
咲いても咲いても生き切れないほどな
憧れのわが運命を 早や歌う。
歌い終って、その足音は消えて行った、
その人は旅をつづけねばならなかった、
まだ悩まない私の悩みを 早くもすっかり歌って
行った。
私の手から辷り落ちた私の幸を歌って行った。
その人が私自身を持って行ってしまった、持って
行ってしまった――
何処へだか誰も知らない・・・・・
ていたけれど
五月の幸を持たなかった。
そのとき 竪琴を持った人が
家の前に通りかかった。
おずおずと 私は眼を挙げて その人を見た――
「おお、母よ、われに自由を・・・・・・」
その歌の 最初の声を聴いたとき
何かが急に割れた気がした。
その歌が始まる前に もう判った
わたしの生の 将来の姿が。
歌うな、歌うな、見知しらぬ人よ、
わたしの生の 将来の姿を。
おんみは歌う、わが幸を、わが歎きを、
わが心をおんみは歌い、ああ、それのみか
いち速く、あまりに早く わが運命を歌っている、
咲いても咲いても生き切れないほどな
憧れのわが運命を 早や歌う。
歌い終って、その足音は消えて行った、
その人は旅をつづけねばならなかった、
まだ悩まない私の悩みを 早くもすっかり歌って
行った。
私の手から辷り落ちた私の幸を歌って行った。
その人が私自身を持って行ってしまった、持って
行ってしまった――
何処へだか誰も知らない・・・・・
Reiner Maria Rilke "Ich war ein Kind" aus Die Frühen Gedichte 1898-1901
ライナー・マリア・リルケ "私は子供だった" 『初期の詩集』1898-1901より:片山敏彦 訳
ライナー・マリア・リルケ "私は子供だった" 『初期の詩集』1898-1901より:片山敏彦 訳
出典:リルケ詩集 片山敏彦 訳 1962 みすず書房
0 件のコメント:
コメントを投稿
********** 投稿要領 **********
1. [公開] ボタンは記入内容を管理者宛に送信し即公開はしません
(サイト劣悪仕様により当該文字列変更不能)
2. 非公開希望の場合もその旨記述しこのボタンで送信して下さい
3. 送信された記述内容は管理者の承認を経て原則公開されます
4. 反公序良俗, 政治的偏向過剰, 宣伝, 広告, スパム等は不可
**********************************