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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2022-12-03

R. M. リルケ :「少女の歌」より


「初期の詩集」より



「少女の歌」より


わたしはその頃 まだ幼なくて たくさん夢を見
 ていたけれど
五月さつきさちを持たなかった。
そのとき 竪琴を持った人が
家の前に通りかかった。
おずおずと  私は眼を挙げて その人を見た――
「おお、母よ、われに自由を・・・・・・」
その歌の 最初の声を聴いたとき
何かが急に割れた気がした。

その歌が始まる前に もう判った
わたしのいのちの 将来さきの姿が。
歌うな、歌うな、見知しらぬ人よ、
わたしのいのちの 将来さきの姿を。

おんみは歌う、わがさちを、わが歎きを、
わが心をおんみは歌い、ああ、それのみか
いち速く、あまりに早く わが運命を歌っている、
咲いても咲いても生き切れないほどな
憧れのわが運命を 早や歌う。

歌い終って、その足音は消えて行った、
その人は旅をつづけねばならなかった、
まだ悩まない私の悩みを 早くもすっかり歌って
 行った。
私の手から辷り落ちた私のさちを歌って行った。
その人が私自身を持って行ってしまった、持って
 行ってしまった――
何処どこへだか誰も知らない・・・・・



Reiner Maria Rilke "Ich war ein Kind" aus Die Frühen Gedichte 1898-1901
ライナー・マリア・リルケ "私は子供だった" 『初期の詩集』1898-1901より:片山敏彦 訳



出典:リルケ詩集 片山敏彦 訳 1962 みすず書房





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