わが母上に
1
首を毅然と挙げて生きることは私の習性です。
わたしの心もなかなか不屈で 強靱 です。
王さまが私の顔を見つめられるときでも
私は俯眼にはならないでしょう。
しかし、母上、うち明けて言いましょう。
私の誇らかな根性がどんなに尊大振っていても、
幸福に甘美な、親しいあなたの傍にいると
謙虚なためらいが、たびたび私の心をつかむのです。
ひそやかに私に打ち克つこのちから、これがあなたの霊なのでしょうか?
一切のものの中へ雄々しく浸み込みながら、稲妻のようにきらめいて
天の光へと飛躍するあなたのけだかい霊なのでしょうか?
わたしをあんなに深く愛して下さったその美しいお心に
嘆きを与えたような幾多の行為を私がしたことの
その追憶が今私をこんなに苦しめているのでしょうか?
2
心が夢中な熱意に憑かれて嘗て私はあなたの側から去りました。
私は全世界を残らず歩きつくしたかった。
そして真心こめて抱きしめることのできる
愛に行き逢えるかどうかを知りたかった。
あらゆる狭い道の上で私は愛を探し
あらゆる戸口で両手を差出して
少しばかりの愛情の施しを乞いました。ーー
けれど笑い声と共に人が私に呉れたのは冷たい憎しみでした。
それでもやはり愛を求めて私はさまよいました。
いつでも求めつつ見出せず、
心は病んで悲しくなり、私はふるさとへ帰りました。
すると母上よ、そこにはあなたが待っていて私を迎え
そしてあなたの眼ざしに豊かに輝いているのは
懐しい愛でした。あんなに永く私が探し歩いたその愛でした。
首を毅然と挙げて生きることは私の習性です。
わたしの心もなかなか不屈で 強靱 です。
王さまが私の顔を見つめられるときでも
私は俯眼にはならないでしょう。
しかし、母上、うち明けて言いましょう。
私の誇らかな根性がどんなに尊大振っていても、
幸福に甘美な、親しいあなたの傍にいると
謙虚なためらいが、たびたび私の心をつかむのです。
ひそやかに私に打ち克つこのちから、これがあなたの霊なのでしょうか?
一切のものの中へ雄々しく浸み込みながら、稲妻のようにきらめいて
天の光へと飛躍するあなたのけだかい霊なのでしょうか?
わたしをあんなに深く愛して下さったその美しいお心に
嘆きを与えたような幾多の行為を私がしたことの
その追憶が今私をこんなに苦しめているのでしょうか?
2
心が夢中な熱意に憑かれて嘗て私はあなたの側から去りました。
私は全世界を残らず歩きつくしたかった。
そして真心こめて抱きしめることのできる
愛に行き逢えるかどうかを知りたかった。
あらゆる狭い道の上で私は愛を探し
あらゆる戸口で両手を差出して
少しばかりの愛情の施しを乞いました。ーー
けれど笑い声と共に人が私に呉れたのは冷たい憎しみでした。
それでもやはり愛を求めて私はさまよいました。
いつでも求めつつ見出せず、
心は病んで悲しくなり、私はふるさとへ帰りました。
すると母上よ、そこにはあなたが待っていて私を迎え
そしてあなたの眼ざしに豊かに輝いているのは
懐しい愛でした。あんなに永く私が探し歩いたその愛でした。
Heinrich Heine 1827 An meine Mutter B. Heine aus Buch der Lieder
ハインリッヒ・ハイネ「我が母上に」歌の本 より
片山敏彦 訳
ハインリッヒ・ハイネ「我が母上に」歌の本 より
片山敏彦 訳
出典:ハイネ詩集 片山敏彦 訳 1951 新潮社
改訂:2024.11.02 出典誤記訂正
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