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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2024-10-30

ハインリッヒ・ハイネ「わが母上に」


詩集「歌の本」より




わが母上に


    1

首を毅然きぜんと挙げて生きることは私の習性です。
わたしの心もなかなか不屈で 強靱きょうじん です。
王さまが私の顔を見つめられるときでも
私は俯眼ふしめにはならないでしょう。

しかし、母上、うち明けて言いましょう。
私の誇らかな根性がどんなに尊大振っていても、
幸福に甘美な、親しいあなたのそばにいると
謙虚なためらいが、たびたび私の心をつかむのです。

ひそやかに私に打ちつこのちから、これがあなたの霊なのでしょうか?
一切のものの中へ雄々しくみ込みながら、稲妻のようにきらめいて
天の光へと飛躍するあなたのけだかい霊なのでしょうか?

わたしをあんなに深く愛して下さったその美しいお心に
嘆きを与えたような幾多の行為を私がしたことの
その追憶が今私をこんなに苦しめているのでしょうか?

    2

心が夢中な熱意にかれてかつて私はあなたの側から去りました。
私は全世界を残らず歩きつくしたかった。
そして真心こめて抱きしめることのできる
愛に行きえるかどうかを知りたかった。

あらゆる狭い道の上で私は愛を探し
あらゆる戸口で両手を差出して
少しばかりの愛情の施しを乞いました。ーー
けれど笑い声と共に人が私に呉れたのは冷たい憎しみでした。

それでもやはり愛を求めて私はさまよいました。
いつでも求めつつ見出みいだせず、
心は病んで悲しくなり、私はふるさとへ帰りました。

すると母上よ、そこにはあなたが待っていて私を迎え
そしてあなたのまなざしに豊かに輝いているのは
なつかしい愛でした。あんなに永く私が探し歩いたその愛でした。



Heinrich Heine 1827 An meine Mutter B. Heine aus Buch der Lieder
ハインリッヒ・ハイネ「我が母上に」歌の本 より
片山敏彦 訳




出典:ハイネ詩集 片山敏彦 訳 1951 新潮社

改訂:2024.11.02 出典誤記訂正



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